AIが米銘柄を判別!青森県から全国展開を目指す農業のデジタルトランスフォーメーション
Client
株式会社 KAWACHO RICE
青森県三沢市で総合米卸売業を展開。主に青森・秋田県内の米生産者から委託されたブランド米の卸販売を行っているが、最近では、グループ会社が手がけるペットボトル入りライス『PeboRa(ペボラ)』が全国で大ヒットするなど、新商品の開発や販促活動を積極的に行っている。
ヘプタゴンが
お手伝い
したこと
- 青森と秋田の食用米の銘柄を AI で判定するスマートフォンアプリを開発
- バックエンドに AWS を採用し、機械学習の開発・運用環境を Amazon SageMaker で構築
- 青森県産米と秋田県産米の合計 8 銘柄において、人間の検査員と同等以上の正解率を達成
(この記事は株式会社ヘプタゴンとわとな株式会社のタイアップ記事です。)
ペットボトルに入ったお米が売られているのを見かけたことがある方がいらっしゃるのではないでしょうか。Pet bottle Rice、略して「PeboRa」と名付けられたこの商品は、全国各地の厳選された銘柄米をペットボトルに封入したもので、手軽なお土産として人気を誇り全国で大ヒットしています。
じつは、このPeboRaを考案したのが、青森県三沢市で長年にわたって米の検査、保管、流通に携わってきた株式会社 KAWACHO RICE 代表取締役の川村靜功さん(以下、川村さん)です。
このPeboRaは広く全国で知られた商品となりましたが、同社はこのたびAI(人工知能)を活用して米の銘柄を判別する「Rice Tag」プロジェクトを開始し、話題となっています。米の銘柄をなぜ判別する必要があるのか、どのような活用が考えられるのかなど、川村さんと、「Rice Tag」の開発に携わられた株式会社ヘプタゴン 代表取締役 立花拓也さんにお目にかかり、お話を伺ってきました。
1【米の銘柄や品質が正しいかを目視検査してきた】
株式会社 KAWACHO RICEは、1931年4月に創業した川長商店をルーツとし、長年にわたって米の検査、保管、流通を行ってきました。同社は農産物検査法第17条第2項の規定による「農産物登録検査機関」として農林水産大臣の登録も受けています。はたして、農産物登録検査機関とはどんなお仕事をされているのでしょうか。
米の卸流通の中で、米袋に封入されている米の銘柄が正しいものなのかを国の基準に基づいて検査をする工程があるそうです。
川村さんは「中に入っている米の品質、銘柄が正しいのかを第三者として検査しています。流通する米袋に穴を開け、一部を取り出して検査を行っています」とお話してくださいました。
この山のように積み上げられた一つひとつの米袋に小さな穴を開けて記載された銘柄が正しいのかを確認しているのだそうです。こうして丁寧に検査され、私たち消費者のところに銘柄や品質基準を満たしたお米が届いているのだと思うと、毎日おいしいごはんを食べられることに感謝の気持ちでいっぱいです。
2【検査品質をどう保持していくかが課題だった】
株式会社 KAWACHO RICEの検査員は青森県に5人、秋田県に2人いるのだそうです。川村さんご自身も検査員です。同様に農産物登録検査機関に登録された企業が全国各地にあり、都道府県ごとに検査が行われています。
検査員は、米の銘柄と品質を瞬時に判別し、認定していかなければならないということから、とても負担がかかる業務と言えます。検査員の方の老齢化が進んでいることも課題です。
米の流通過程において異品種混入があったら、その米は事故扱いになってしまいます。そうすると、「せっかく出荷した米が戻ってきてしまう」のだそうです。どこで混じってしまったのか、原因を追及する必要があります。
米を作る農家の側で老齢化の問題が深刻で、出荷した農家さんのほうで銘柄を間違えて袋詰めするケースもあるそうです。また、銘柄認定にはDNA検査を行いますが、この検査は1度行うには高額な費用がかかり、なおかつ結果が出るまでに長期間の時間を要するのだそうです。検査員のクオリティで確実に、そして迅速に銘柄と品質を確認できる仕組みが求められているわけです。
このような課題を解決するために、2019年の夏頃から三沢市のIT企業である株式会社ヘプタゴンと協業で、AIを活用して米の銘柄判定を行う「Rice Tag」プロジェクトが立ち上がりました。約1年半の期間を費やし、AIの開発、実証実験を行い、スマートフォンのアプリで撮影するだけで瞬時に米の銘柄判定ができるようになりました。
協業のきっかけは、KAWACHO RICEの川村さんがAIを活用できないかと考え、そこから同じ三沢市のヘプタゴンさんが技術を担当することになったそうです。
3【AIが検査員と同等以上の判定正解率を達成】
今回リリースされた「Rice Tag」は、カメラで米を撮影すると、直ちに銘柄が判別されるというものです。現在、青森県産米4銘柄および秋田県産米4銘柄に対して判定ができ、資格を有する検査員と同等以上の正解率を得ることができました。
銘柄を判別するには、AIが判定できるだけのデータを読み込ませなければなりません。最初は精度があまり出なかったそうですが、試行錯誤し、検査員さんにいろいろ伺ううちに、人がどうやって米を判定しているかというコツを聞かせてもらい、AIの精度を高めていったそうです。
「すべての米を見ているのではなく、検査員の方々はじつは形状や色などで特徴があるものをピックアップして判断していたのです。しかも、米粒のどのあたりを見て判断しているか、どういう判断で結論を出しているかということを何回もヒアリングしました。
その後もアルゴリズムやロジックを組み立てるのが大変で、単純にAIが判断するというのではなく、人の考え方に近づけて組み込んでいきました。米の向きも同じ方向を向いていないと精度が上がらないなど、本当に細やかなところまで気を遣っていることがわかりました。
実際にこの画像で判別できるかを川長さんとやりとりし、フィードバックして、人間の目で見たときにもきちんと判定できるかを確認してから学習させていきました」(立花さん)
なるほど、検査員さんはすべての米を見ているのではなく、特徴を表している米を探して判別していたのです。色や透明感の強さとか、白っぽい、形も判断基準です。未熟な米もあります。
「人は、ほかの人の顔が判別する際に、顔の特徴をつかんでいると思います。私たち検査員は青森県を代表する4品種の米を、これはつがるロマンの顔、まっしぐらの顔、というふうに判別しているのです」(川村さん)
米の特徴から瞬時に銘柄がわかるってすごいことだと思いませんか? 「今回のプロジェクトで人間の目をAIが超してしまった」と川村さんはおっしゃっていました。各現場、様々なポジションの中でAIの発展が活かされれば、未然に防げる事故がたくさん出てくるかもしれないとのことです。
4【今後の展望】
「Rice Tag」プロジェクトは現在、青森県産米4銘柄および秋田県産米4銘柄に対して資格を有する検査員と同等以上の正答率でAIが判定できたというところまで実現した実証実験です。今後は商用化に向けた検討が始まります。
「なにより一番は検査員のために作ったアプリです。検査員の負担を減らすとともに、流通の過程でより正確に銘柄のチェックすることが目的です。今後商用化していく中で、高価でなければ気軽に農家さんがスマホに入れて活用するのも良いですし、全国の卸業者さん、商社で仕入れを担当している方に使っていただくということも考えられるでしょう」(川村さん)
「ビジネスという観点では、ゆくゆくはそこに繋げていきたいと思いますが、今はどこまで人の役に立つかというところを追求していきたいと考えます。今回プレスリリースしてわかったこととして、このRice Tagを求めている方たちが大勢いることを知りました」(立花さん)
今は第一歩を踏み出したばかりですが、もしかしたら10年後をイメージするとものすごいことになっているかもしれません。米の形や色の悪いものを瞬時のうちに判別できるオートメーション機器がKAWACHO RICEの倉庫内にありました。米を上部から流すと、センサーで判別し、規定外の米はエアで弾かれます。たとえば、今回開発されたAIの目がもっと進化してこうした機器の中に導入されれば、瞬時に銘柄が混在した米を振り分けられるようになるかもしれません。
AIやアプリは完成の目処がたっていますが、撮影時に使うハードウェアの開発がこれからで、当面はそこのブラッシュアップをしていきたいと立花さんがおっしゃっていました。今年の収穫の時期くらいまでにハードウェアの精度も高めて、実際に検査員に使ってもらうことができればビジネスに繋がっていくのではないかとのことです。
川村さんは、「へプタゴンさんと協業できたことが楽しかった」とおっしゃっていました。青森県にはすごい人がいるんだ、と立花さんのことをお話されていたのが印象に残っています。
「現場を知る力、何回も聞きに来て、現場のことを知ったことが差、地元で近いところでやった。現場のことを知っている力が大きい」と、お二人からお聞きすることができました。
今後は全国の優秀な検査員と共に立花さんたちがAIの目を鍛えていくことになるでしょう。青森県と秋田県で活用できるAIは完成したので、今後は他の地域の方々と協力して、判別できる銘柄を増やしていくのが今後の展望です。
【関連リンク】
- 米の銘柄判定をAI搭載のアプリで実現するRiceTagプロジェクトの実証実験が成功 (PR TIMES)
- AIがコメの銘柄を判定する新アプリ スマホの写真を解析 (ITmedia)
- AWS 導入事例:株式会社 KAWACHO RICE (アマゾン ウェブ サービス)
編集後記
今回身近な米の話を聞き、本当に様々な方の力があって美味しい米を食べていることを実感しました。米離れという言葉を聞きました。米を食べる人が減っているそうです。私たちは毎日米を食べられることに感謝の気持ちを持ち、また、目の疲れや大きなプレッシャーと共に仕事をされている検査員さん、農家さん、農協の方、など、多くの人に支えられ食べることができていることに感謝します。お米万歳。貴重なお話を伺うことができ、大変面白かったです。
取材・文:宮古沙紀(わとな株式会社 取締役/青森公立大学 学生)
【システム構成】
アプリのバックエンドはサーバレスな構成を用いることで、POC時には運用コストを抑えると共に、同じ構成のままサービスイン/サービスの拡張が行えるようになっています。
機械学習のプラットフォームにAmazon SageMakerを採用することで、開発環境や推論環境の構築の手間を大きく減らすことができました。